「このミス」大賞・岬洋介の事件簿シリーズ「さよならドビュッシー」から「どこかでベートーヴェン」まで感想
「さよならドビュッシー」は「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した中山七里の作品。
ピアニストの清塚信也と橋本愛が主演で映画化、さらに東出昌大、黒島結菜主演でドラマ化と、叙述トリックを使っているにも関わらず映像と親和性の高い作品です。
こちらはシリーズで、「おやすみラフマニノフ」「いつまでもショパン」「どこかでベートーヴェン」、スピンオフとして「さよならドビュッシー前奏曲(プレリュード)」が既刊となっています。
ミステリ部分はもっと詳しく解説されているブログや感想が多数ありますので、ここでは登場人物のキャラクターや音楽作品としての感想を述べていこうと思います。
こちらのシリーズはスピンオフ作品以外はすべて、岬洋介というピアニストが様々な場所で起こる事件を解決する名探偵コナン形式のお話です。
「ドビュッシー」・「ラフマニノフ」は主役は別のところにいて、あくまで探偵役としての登場ですが、「ショパン」・「ベートーヴェン」は語り部が岬を客観的に解説しながら物語が展開されていきます。
この岬洋介というピアニストが、それはもうかっこよいのです。
歳は多分二十代前半、すらりとした痩身で小顔。ジャニーズ系じゃない。戦隊ヒーロー物に出てくる俳優でも妖しいホストでもない。お坊ちゃん、というか良家の聡明な少年がひねくれもせずそのまま順調に成長したようなハンサム。
と、女子高生に言わしめる美丈夫ぷり。
それでいて
黙っていても知性の窺える面差しなんや。それに・・・何やこう、立ち振る舞いがな、昔気質の男みたいに背中に一本びしっと芯が通っとる。(中略)戦時中の将校なんかが丁度あんな風やった。
と、おじいちゃんまで絶賛。
一体どんな少年時代を送ってきたのだ、岬洋介。
実は、「ドビュッシー」・「ラフマニノフ」・「ショパン」の三作は作品中の現在時間軸の作品ですが、最新作の「ベートーヴェン」は岬の高校時代のお話となっています。
涼しげながら意志の強い、才能の塊のような岬の外面しか出てこないそれまでと違い、「ベートーヴェン」はまだ少年である彼の内面が少し垣間見える、少しテイストの違う作品です。
ちなみに、「ベートーヴェン」の舞台はは2000年・岐阜県のとある高校。高二年生の春、とあることから、岬は2018年現在、35歳の設定です。
憚らず言えば、こういう人、ものすごく、今風に言うと「エモい」。
映像化で彼を演じたお二方、共に私の中のイメージの岬を超えられずに、うーんやはり原作が好き!という感想。
彼のエモさが尊いのは魅力として、二面性があると思う。
このシリーズは解説でも書かれていますが「スポ根・音楽・ミステリ」の三つの要素があり、岬は「音楽に対して真面目でどこまでもストイック」でありながら事件を解決するべき資質、
錯綜し縺れた事象を一挙に解明してしまう神がかった部分を兼ね備えていた 。
を持ち合わせている。
見えているものが自分と違う人に憧れを抱くのは必然で、岬はまさにそういう人なのだ。
だから、第三者視点で展開される事件の中、私たちは物語のキャラクターと同じ位置から岬を見て、そのキャラクターと同じように岬に憧れる。
岬が唯一無二のキャラクターであることは上記の通りですが、各物語のメインとなるゲストキャラクター(各作品で変わるので、ゲストと表する)にも毎回惹かれるものがあります。
特に三作目「いつまでもショパン」の語り部はポーランド人のピアニスト、ヤン・ステファンス。舞台はポーランド・ワルシャワで開催されているショパンコンクールで、ヤン含め登場人物は世界各国からやってきたコンテスタント。
ポーランド人のショパンに対する思い入れの強さや、外国人から見た日本人の評価を事件に織り交ぜながらも、コンテスタント同士の交流はテンポが良く読んでいて清々しい青春を感じる。
そして何より、音楽の描写が鮮やか。
タイトルに名だたる音楽科の名前が入っていることから分かるように、各作品にはタイトルとなった音楽科の有名曲がキーワードとして登場する。
該当する曲をYouTubeで探して聴きながらその部分を読んでしまった。
特にラフマのピアノ協奏曲2番はひたすら聴いてました。
音楽好き・ミステリ好きにはぜひ読んでいただきたい作品です。
そしてできれば岬先生のすばらしさを分かち合いたい。