「ナラタージュ」作者・島本理生デビュー作「シルエット」感想。十六歳の非現実的な恋愛をたどる。
島本理生と言えば、先日松本潤と有村架純で映画化された「ナラタージュ」の作者。「ナラタージュ」は中学生の頃に読んだ本だったのですが、実家に置いてきており読み返すことはなく・・・内容もすっかり消えてしまっていました。
そのうちに読み返せれば。
さて、今回はその島本理生さんのデビュー作「シルエット」を含む短編集。
この「シルエット」を書いた頃、島本理生さんは15歳。登場人物は16歳なので、自分より年上の登場人物を描くことへの抵抗を考えてしまう自分には素直にすごいな、と感心してしまいました。
(今はもうそんな抵抗はなくなりましたが)
「シルエット」はとにかく透明感のある文体の作品。
文章の端々に消えてしまいそうな男の子への憧れが透けて見える女の子は、自身の世俗的な感性を嫌悪しているのにそこが居場所であると理解している。
登場人物は主人公の「わたし」と、「わたし」が忘れられない元カレ「冠(かん)くん」、今付き合っている大学生の「せっちゃん」を中心に展開していく。
冠くんは優等生の文学少年。彼は女性に触れられないと言う。
儚さピカ一な冠くんを
わたしは彼を霧雨のような人だと思った。
と回想する。
せっちゃんはボン・ジョビが好きで、「わたし」のことを「あなた」と呼ぶ男の子だ。
せっちゃんのセックスはおそろしく丁寧で、終わるころにはいつも彼の愛情の海に侵されて起き上がることすら困難なわたしがいる。彼は女の足の指の、爪一つ一つまでも宝石か何かのように扱って自分で磨き上げなければ気がすまないらしく、普段の彼からは想像もつかないほどの慎重さと緻密な作業でわたしの体内に快感を積み上げていく。
とあるように、冠くんと違い、触れ合いを重視する。
どんなに泣いていても抱きしめて慰めてくれない冠くんに募る苛立ち。
好きだからこそ、触れ合いたいと願う年頃の女の子の感情を受け止められない冠くんだからこそ、透明で冷たい印象を残す。
愛情深く深い器の持ち主であるせっちゃんは拒絶されることに疲れた「わたし」の心を満たしていく。
けれど、「憧れ」で縛られた「わたし」の心は冠くんから離れられない。
離れられない、という思い込みが十六歳らしくて痛々しい。
思春期の恋愛は深い爪痕を残すことがあって、そんな恋愛を思い出すとき、そこには感傷と自分の過ちが必ず自分を苦しめる。
大人になっても。